~ラズパイとマイコンで実現!フィルムヒーターのワイヤレス温度制御~
設備・情報技術室 AI・メカトロニクス班
木庭 洋介
「実験装置が密閉されていて、外から電源・制御用ケーブルを引き込めない…」
このような物理的制約のある環境で「装置内部の温度を制御したい」という要望に応えるため、私たちはモバイルバッテリー駆動のワイヤレス温度制御システムを開発しました(下写真)。
システムの核となるのは、ヒーターの温度を精密に制御する小型高性能マイコンESP32と、操作画面およびWi-Fiアクセスポイントの役割を担うカードサイズの小型コンピュータRaspberry Pi(ラズベリーパイ)です。両者を無線で連携させることで、物理的制約のある環境でも柔軟な温度管理を実現しました。
システム構成
システムは大きく分けて以下の4つで構成されています。
- 温度測定部:測温抵抗体、温度センサ用A/D変換モジュール
- 温度制御部:ESP32、フィルムヒーター、パワーMOSFET
- 電源部:PD対応モバイルバッテリー、PDケーブル、3端子レギュレーター
- 操作端末:Raspberry Pi タッチディスプレイ
温度測定部、温度制御部、電源部を装置内部に設置し、外部から操作端末を用いてヒーター温度のモニタリングや設定変更を行います。以下では、それぞれについて説明します。
温度測定部 ~PT100を使った高精度な温度測定~
フィルムヒーターの表面温度を測定するため、測温抵抗体を貼り付けます。測温抵抗体は、温度変化に応じて抵抗値が変化する特性を利用するセンサーで、本システムではPT100を採用しました。
PT100は白金(Pt)を用いた高精度センサーですが、抵抗変化が非常に小さいため、正確な温度変換には専用IC(例:MAX31865)が必要です。また、このICは測定値をデジタルデータとしてESP32へ送信できます。
上写真に示す「温度センサ用A/D変換モジュール」には、MAX31865、電源安定化回路、精密抵抗などが集約されており、PT100の抵抗変化を安定して温度データへ変換し、ESP32へ送る役割を担います。
温度制御部 ~PWM信号による細かな電力調整~
温度センサ用A/D変換モジュールで取得した現在温度と目標温度を比較し、その差を埋めるためのヒーター出力をESP32が計算します。計算アルゴリズムには、代表的な自動制御手法である、PID制御を採用しました。
ESP32は1秒ごとにヒーター出力を計算し、その結果をPWM信号として出力します。このPWMとは、高速に信号のON/OFFを繰り返す方式で、ONの割合(デューティ比)を変えることでヒーターへの供給電力を細かく調整できます。
なお、本システムで使用するフィルムヒーターは12V10Wのもので、25℃環境下では約120℃まで加熱可能です。ただし、ESP32単体の出力では電力不足のため、パワーMOSFETを介して必要な電力を供給します。
電源部 ~一つのバッテリーでヒーターと回路の電源に対応~
本システムにはヒーター用の12Vと、温度センサ用A/D変換モジュールとESP32用の5Vが必要です。しかし、複数のバッテリーを用意すると装置が大型化してしまいます。そこで、PD対応モバイルバッテリーを採用しました。
PD対応バッテリーはUSB Power Delivery規格に準拠し、接続機器に応じて5V・9V・12Vなど電圧を自動的に切り替えます。本システムでは、PD規格に対応したUSB Type-Cケーブル(PDケーブル)を介してモバイルバッテリーから12Vを取得し、さらに3端子レギュレータで降圧して5Vを生成しました。これにより、1台のバッテリーで必要な電圧をすべて供給でき、装置のコンパクト化を実現しました。
操作端末 ~タッチディスプレイを使った直感的に使えるインターフェース~
本システムの大きな特徴は、ESP32とRaspberry Piの無線通信です。このとき、インターネット環境がない場所でも動作できるよう、Raspberry PiをWi-Fiアクセスポイント(ホットスポット)として設定し、ESP32と直接通信するローカルネットワークを構築しています。
また、以下にRaspberry Piで動作する、温度制御アプリの画面を示します。アプリは以下のように設計しました。
- 画面左側:「現在温度」、「目標温度」、「温度差」がリアルタイムで表示され、一目で状況を把握できます。
- 画面中央:数値をタッチして簡単に目標温度を変更でき、制御開始/停止ボタンで操作します。
- 画面右:システム状態を確認でき、また、PIDパラメータの調整もできます。これにより、現場で温度制御の応答特性を微調整できます。
性能評価
ヒーター温度を80℃に設定し、約2時間制御させた結果を上のグラフに示します。制御開始時のバッテリー残量は99%、終了時は77%で、まだ十分な余力が残っていました。
グラフでは1時間を超えたあたりから目標温度より1~2℃低下していますが、制御を停止したため、その後の挙動は未確認です。未検証の部分はあるものの、少なくとも1時間程度の制御では±2℃の精度を達成できることが分かりました。
おわりに
最後までお読みいただきありがとうございました。本記事で不明点がございましたら、どうぞお気軽に技術部までお問い合わせください。



