工学部技術部 計測・分析技術室
村上 幸治
突然ですが、「材料試験士」という資格をご存知でしょうか。これは、厚生労働省が認定する「技能士」(※1)や文部科学省の「技術士」(※2)とは違い、公益社団法人 日本材料学会が独自に認証を行っている技能検定の中の技術分野です。現在行われている技能検定には、金属材料に対する「硬さ試験・引張試験」および「疲労試験」の二つがあり(※3)、それぞれの技能種別において以下の級区分が設けられています。
<硬さ試験・引張試験>
【1級】:金属材料の硬さ試験および引張試験を正確に実施できる知識と技能を有するとともに、材料力学の基礎および試験機の保守・管理法を含めて、実機への応用時に求められる材料学的な総合知識を有する者
【2級】:金属材料の硬さ試験および引張試験を正確に実施できる知識と技能を有する者
【3級】:大学学部3年生以上・高専専攻科学生で2級相当の知識と技能を有する者
<疲労試験>
【1級】:金属材料の疲労試験を正確に実施できる知識と技能を有するとともに、材料力学および疲労設計の基礎、ならびに試験機の保守・管理法を含めて、実機への応用時に求められる材料学的な総合知識を有する者
【2級】:金属材料の疲労試験を正確に実施できる知識と技能を有する者
このうち、私は「材料試験士 1級(疲労試験)」を取得しています。「◯◯士」という名称のついた資格ですが、いわゆる士業として独占業務を行う職業とは違うため、その名に関連する技術業務には必須ではありません。また、職場での業績評価に加点されるとは言い難いのも現実です。ではなぜ私がこの資格を取得したのかという背景ですが、私たちの技術や技能に期待していただける教員や、事務職員、学生および企業の構成員には毎年新陳代謝が起こっているためです。
例えで補足すると、とある学生の研究に特化した技術を習得したとします。その学生が卒業と同時に研究テーマが終了した場合、技術を活かす場所を失ってしまうことになります。極端な例ですが、研究とはすべてが未来永劫継続されるわけではありませんので、尖りすぎた技術のみを習得している場合は、応用が効かないばかりか自分の居場所を失いかねないのです。そこで、汎用性と専門性を考慮しつつ、自身の技術業務のキーワードの中から「疲労試験」を柱として位置づけ、冒頭の資格群の中から専門的かつ需要が見込めると判断した材料試験士を取得することにしました。
注意したいのは、資格を取得すれば業務が自然発生するわけではないということです。自分が持っている技術をわかりやすく伝える手段に「資格」というものがあり、ここからがスタートであり、客観性を持ったアピールを持続的に行う必要があると考えます。私が取得した材料試験士は、業務に関連するJIS、WES、ASTM、ISO等の規格にもある程度精通していますので、研究計画の段階から業務支援に関わることが可能です。実際、自身の経験も踏まえた技術相談にも対応できるように成長している実感を持っています。
最後に、材料試験士は業務独占の士業ではなく、労働安全衛生法に定める技能講習の資格でもありませんが、使い方次第で立派な武器になる資格です。同様な資格は世の中に沢山ありますので、この機会に改めて「資格とはなんぞや?」を見つめ直してみてはいかがでしょうか。
※1 厚生労働省:技能検定制度について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/ability_skill/ginoukentei/index.html
※2 公益社団法人日本技術士会(試験事務及び登録事務を行う)
https://www.engineer.or.jp/contents/about_engineers.html
※3 公益社団法人日本材料学会
https://www.jsms.jp/kaikoku/ginoukentei.htm

