未経験の技術にどう対応?
平成28年11月に工学部技術部に採用され、未経験の状態から「ガラス細工技術」に挑戦している中村さんにお話を伺いました。
ガラス細工技術紹介
中村有沙さん
( 工学部技術部 計測・分析技術室 材料・化学分析班 )
ー中村さんは現在どのような業務に携わっていますか?
「現在は応用化学部門の学生実習の補助を担当しています。それから電子顕微鏡の勉強をしながら、ガラス工作に取り組んでいます。」
ー採用時の研修からガラス細工を始められたそうですが、具体的にはどのようにして技術を習得しているのですか?
「はじめは研修で習った内容を練習しながら、ガラス細工に関する書籍を紹介してもらって読んでいました。でも昔の資料しかなくて、図書館で探しても理化学系のガラス細工に関する書籍がなかなかありませんでした。最近ようやく見つけることができたので購入して参考にしています。それから、以前勤務されていた職員の方に二回ほど来ていただいてご指導いただきました。また工学部以外でもガラス細工をされている方がいらっしゃるので、加工の様子を見学させていただく機会があります。見学後は作業場に戻って、見た内容を繰り返し練習し、できたものをその方に評価してもらっています。」
ガラス細工に使用するバーナーには可燃性ガス・酸素・圧縮空気の3つが送られており、それらを細かく調整しながら作業を行います。また先端のノズルは円形で、中心部分と円周部分の炎が別々に調整できるようになっており、広く加熱するための大きな炎、局所的に加熱するための小さな炎を作り出すことができます。
ーなるほど。それ以外にも、9月に長崎大学で開催されたガラス細工技術研修会に参加されていますね。学外の研修会はどんな印象でしたか?
「長崎大学での研修はとても参考になりました。書籍などには書かれていない細かな作業のコツを掴めたのが大きな収穫です。たとえばT字管を製作する場合は管の一部を加熱しながら息を吹き込んで穴を開けます。ガラス管の途中を風船みたいに膨らませる要領です。膨らませた部分をカットすると穴が開き、そこに新たな管を接続してT字管にしますが、膨らませ方にもコツがあって、そういった部分は実際に体験しないとわからないんです。長崎大学の大濱氏が講師として研修を実施してくださっているんですが、テキストも細かく説明が入っていて、実際の作業時も初学者向けの内容ということもあって、ゆっくりと丁寧にご指導いただきました。慣れた方の作業は速すぎてついていけないんです。少人数で参加者の技能のレベルに差が無かったので、色んな質問がしやすい状況だったのもよかったですね。」
ー書籍や熟練者の作業を参考にして日々練習をしているようですが、ガラスを扱うにあたって難しい部分というのは具体的にどんな部分ですか?
「作業自体はすべて難しく感じるんですが、まずガラスの回し方ですね。ガラス細工はバーナーを使ってガラスに熱を加えて加工を行うんですが、均一に加熱するためにガラスを手で回転させながら作業します。一定の速さで回転させないといけなくて、よく姿勢や回す速さを注意されます。そして十分に加熱したガラスを引っ張って伸ばしていくときにもコツがあります。管を回しながらタイミングをみて伸ばし始めるんですが、ガラスの状態に合わせて引く速さを調整します。両手で管を回しながらの作業なので、失敗するとガラス管の真ん中で伸びてくれないんですよね。管の軸からずれるとその後の加熱時にガラスが偏心して回転してしまうので、うまく加熱できなかったりするんです。自分ではうまくできたと思っていても講師の方からご指摘をいただくこともあります。練習では、それらに注意しながらバーナーの炎を調節してもらって、ようやく納得のいく形にできました。」
ガラス管を加熱し、引っ張る作業の様子。伸ばした部分は持ち手や息を吹き込むために使います。管の軸が曲がらないように真っすぐ引き伸ばさなければなりません。
ー炎の調整一つでも結果が変わってくるものなんですね。
「そうです。引っ張り方も一定に伸ばしていくわけではなくて、伸ばし始めのタイミングも重要ですし、速度も徐々に変化させます。ガラスが軟らかくなっているのでうまく調整しないと重力で曲がってしまいます。これらの作業が終わってからようやく目指す形にしていくんですが、管状のガラスを加熱して軟らかくすると、どんどん直径が小さくなってしまいます。なのでそれを防ぐために風船のように息を吹き込みながら作業します。息の吹き込み具合の感覚を掴むためにたくさん練習しました。うまくいかないとガラスの厚みが変わってしまって、破損のリスクもあるので気を使います。」
ーガラス細工に関しては現在、どのような依頼がありますか?
「初めは割れたガラス器具の修理をしました。割れてしまった部分を切除して、断面の角の部分を加熱しながら丸めて修理します。あと最近は試験管やアンプル管の製作依頼をいただきました。製作した試験管は、昨年9月に行われた大牟田市石炭産業科学館での市民向け講座の実演実験に使用され、試験管内で石炭を燃やして観察するために用いられました。当日は私も同行していたんですが、自分が作ったものが実際に役立っているところを見ると感動しますね。嬉しかったです。それと同時に、ガラス器具は加熱したり内部を真空状態にしたりして使用される器具なので、安全なものを作らなければという責任感も感じました。」
製作したアンプル管。液体を封入できるように管の一部が狭くなるよう加工されています。細い管と太い管をバーナーで接続して製作します。
アンプル管の底部分を塞いでいる様子。加工後に半球状の形にするため、何度も加熱と息を吹き込む作業を繰り返して形を整えます。
ー中村さんは薬学部出身だそうですが、ガラス細工に対して役立つ部分はありますか?
「そうですね、薬学部でもガラス機器を用いた実験を行っていましたから、そのときの経験が役に立っていると思います。修理や製作を行う際に使い方をある程度把握していれば使いやすい工夫ができると思いますから。」
ー確かにそうですね。使い方を知らずに修理や加工を行う場合よりも、よいものができそうですね。
「例えば、管の端の形状なんかはその先に何を繋ぐかとか、使い方をイメージできれば、それに合わせて処理をすることができますからね。逆にガラス細工を勉強したことで、学生時代に使っていた器具が既製品ではなく、職員さんが工夫を凝らした品だったことがわかりました。マドラーのようなかき混ぜる棒を使っていたんですが、既製品は先端に球がくっついたような形状なんです。ところが使っていたものは先がスプーン状になっていて、実は手作業で作られたものだったんですね。」
バーナー以外にもさまざまな器具を駆使して加工を行います。加工者が使いやすいよう手作りされたものも見られます。
ーガラス細工を通して、当時使っていた器具を製作してくれた職員さんの工夫が見えるようになったわけですね。
今後はどんなことに挑戦していきますか?
「今後はテーパースリーブやロート管を作れるようになりたいと考えています。ですが、テーパースリーブの製作には設備や冶具の製作から始める必要があります。冶具の製作は機械加工の分野になりますが、そういった部分からまた新たな分野に触れることができると思うので楽しみにしています。また他大学の活動なのですが、ガラス細工で製作した製品で地域貢献している大学もあるみたいなので、そういった部分にも機会があれば挑戦してみたいですね。」
ー今後、様々なことに挑戦されるみたいですね。ガラス細工技術者は全国の国公立機関でみても減少傾向にあると聞いたことがありますので、貴重な技術者として頑張っていただきたいと思います。本日はありがとうございました。