2019年3月6日(水)、7日(木)、8日(金)の3日間、日本全国の技術職員が一堂に会する「総合技術研究会」が、九州大学伊都キャンパスにて開催されました。本研究会は全国の大学・高等専門学校及び大学共同利用機関に所属する技術職員が、日々携わる業務の中で習得した広範囲に及ぶ技術や専門的知識を発表し合う場として、長い間隔年で開催されてきました。九州大学では初めての開催となることから、約2年前より実行委員会が設けられ、全学の技術職員が協力し合い、一丸となって企画・広報・運営などの準備が進められました。
スケジュール
日 程 | プログラム | 会 場 |
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6日(午後) | 技術交流会・見学会 | 各キャンパス、学外施設など |
7日(午前) | 開会宣言 | 伊都キャンパス 椎木講堂 コンサートホール |
安全衛生技術講演会 | ||
7日(午後) | 開会式 | |
特別講演「新元素の探索」 | ||
次期技術研究会開催案内 | ||
口頭発表1 | 伊都キャンパス センター2号館 | |
7日(夜) | 情報交換会 | ソラリア西鉄ホテル福岡 |
8日(午前) | ポスター発表 | 伊都キャンパス ウエスト1、2号館 |
8日(午後) | 口頭発表2 | 伊都キャンパス センター2号館 |
技術交流会・見学会
初日の6日午後から、九州大学内の各キャンパスおよび学外関連施設において、以下に示す技術交流会・見学会が開催され、当日は悪天候にもかかわらず、各々の分野に興味を持つ多くの技術職員が参加しました(★は 工学部技術部が中心となって企画・運営し、一部理学部所属の技術職員の協力を得て実施)。
伊都キャンパス: | 機械工作技術及びガラス工作技術交流会★、化学実験実習技術交流会★、ナノテクノロジー技術交流会★、大型実験施設・設備見学会★、国際宇宙天気科学・教育センター見学会 |
筑紫キャンパス: | 筑紫キャンパス分析機器見学会 |
大橋キャンパス: | 芸術工学部見学会 |
篠栗農場・演習林: | 農学部附属農場見学会、農学部附属演習林見学会 |
学外関連施設: | 佐賀県立九州シンクロトロン光研究センター見学会 |
どの会場においても活発な意見交換や技術交流が行われ、参加者から面白かったとの言葉をもらい、企画者や担当者は実施して良かったと大きな手応えを感じたようです。また、業務内容は違っても技術職員の在り方について議論するなど、全国多種多様な技術職員が集まる総合技術研究会ならではの交流ができ、貴重な経験ができたとの声も聞かれました。
開会宣言
7日は午前10時40分より、佐藤誠樹実行委員長(工学部技術部次長)による開会宣言で総合技術研究会が開幕しました。また、椎木講堂におけるプログラムの司会進行は、工学部技術部の山城理恵氏(計測・分析技術室 材料・化学分析班)が務めました。
安全衛生技術講演会
本研究会から遡ること約一年前、プレ大会と称して開催された「九州大学 技術発表会」において“安全衛生セミナー”が行われました。その企画を発展させ、防災に関する情報を共有するとともに、いつどこで起こるかわからない災害に備える意識を高める目的で、安全衛生技術講演会が行われ、甚大な地震災害を経験した神戸大学、東北大学、熊本大学から3名の技術職員にご講演いただきました。なお、本講演会は工学部技術部の東畠三洋氏(設備・情報技術室 大型施設管理班 班長)が企画運営し、当日の司会も務めました。
講演1:「阪神・淡路大震災の事例報告」
神戸大学大学院工学研究科 工学技術センター技術室 技術長 大槻正人氏
1995年に起こった阪神・淡路大震災の被害状況などの概要、および発生当初の技術職員の役割について写真を交えながら紹介されました。震災後の復興時の取組み例として、職場巡視徹底のため第一種衛生管理者資格の取得促進、転倒防止のための治具作製や避難経路図等のデザイン作成等に注力されたそうです。
講演2:「東日本大震災から学ぶ大学における震災対策と地震対策」
東北大学大学院工学研究科 工学部 マテリアル・開発系 玉木俊昭氏
2011年の東日本大震災で体験したことをもとに、地震後の避難における注意事項や震災後の今後の対策・役に立ったものなどの紹介がありました。「前震」「本震」「余震」の危険性についても言及され、本震の後に当分大きな地震は来ないという思い込みは危険だということ、また、頻発する余震の中での復旧作業はストレスが大きいため、絶対に無理をしないこととの教訓を強調されました。
講演3:「熊本地震下での復旧総力戦と地震対策の評価」
熊本大学工学部技術部 電気応用グループ 須恵耕二氏
熊本では大きな地震は起きないと信じられていたところに、二日間に二度の震度7を記録する大地震が起こり、組織としてどのように地震に向き合いどのように対策を行ってきたかについて、具体例をあげて分かりやすく解説されました。建物の上層階になるほど被害が甚大になるため、重いものや高価な装置はできるだけ下の階に置くことや、身体に障害がある方はエレベータが止まる可能性があるので低層階に居室を置くことで減災すること、さらには、復旧作業中の電気通電の際の火災や感電の対策についての具体的手法も紹介があり、大変勉強になる講演内容でした。
どの講演においても参加者からは質問だけではなく、各大学における対策例や提案など活発な議論が繰り広げられ、非常に有意義な情報交換の場になっていた印象でした。
開会式
6日午後からは開会式が行われ、久保 千春 九州大学総長より開催挨拶を賜りました。
ご挨拶の冒頭では学外からの参加者に向けて、九州大学の歴史と現状、本研究会開催地である伊都キャンパス、椎木講堂についてご紹介いただきました。また、本研究会が教育研究に必要な技術の基盤強化を図るものであり、機関の枠を超えた技術職員同士の技術交流、専門技術の共有が進むことを期待しているとのお言葉をいただきました。
特別講演会
「新元素の探索」 九州大学大学院理学研究院 森田浩介 教授
森田浩介先生は、日本発アジア初の新元素、原子番号113番の元素「Nihonium(Nh)」を発見・命名するという偉業を成し遂げられました。本講演では超重元素合成実験の難しさや、2004年の最初の113番新元素の発見から2015年にIUPACより命名権を認められるまでの10年を超える研究の日々、晴れて命名権を認定された後に研究チームで集まり、命名についての会議を開くことが出来た喜びなどについてお話しいただきました。
本公演は総合技術研究会の参加者だけでなく一般にも公開したことで、九州大学の教職員や学生なども大勢詰めかけ、客席はほぼ満員となりました。講演の最後には聴講者から、技術者との関わりについて、森田先生の次の目標について、新元素命名会議の様子についてなど多くの質問が寄せられ、森田先生はひとつひとつ丁寧に回答されていました。また、本公演の様子はNHKテレビ局の夕方のニュースでも取り上げられるなど注目度の高さが伺えました。
口頭発表・ポスターセッション
発表は下に記す12の分野について募集され、口頭発表188件、ポスター発表252件の申し込みがありました。どちらの会場も大勢の聴講者で賑わい、活発な質疑応答や意見交換が行われました。
口頭発表・ポスターセッション開催分野
1.機械・材料系,製作技術分野
2.特殊・大型実験,自然観測技術分野
3.電気・電子・通信系技術分野
4.極低温技術分野
5.情報系技術分野
6.生物・農林水産系技術分野
7.生命科学技術分野
8.分析・評価技術分野
9.実験・実習技術分野
10.建築・土木・資源系技術分野
11.施設管理・安全衛生管理技術分野
12.地域貢献・技術者養成活動分野
業務によって得られた知見や業務を行う上での創意工夫、施設の安全管理や地域貢献の取り組みなど、発表は多岐にわたっていました。技術職員の持つ技術は専門性に富み、その活動範囲は広く、大学内だけではなく社会に対しても多大な貢献をしていることを強く感じさせるものでした。
情報交換会
夕刻19時より、ソラリア西鉄ホテル福岡にて情報交換会が開催されました。初めに久保千春九州大学総長からご挨拶をいただき、主催および来賓による鏡開きの後、佐藤実行委員長による乾杯の発声とともに懇談が開始されました。会場では、各大学や機関からのお土産のお酒や、地元福岡の郷土料理が振舞われ、参加者たちは舌鼓を打ちつつ歓談に花を咲かせていました。途中で次期研究会開催校の告知を挟み、2時間ほど続いた会の終わりには、本会の司会を務めた松川洋二事務局長(工学部技術部 製作技術室 室長)が博多手一本を披露し、大盛況のうちに幕を閉じました。参加者は420名を超え、大変有意義で充実した情報交換会となりました。